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ちぎりきぬ

契りきぬ

山本 周五郎

「ロマンス」ロマンス社、1949(昭和24)年10月~11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,757 字 · 66 页

青空文庫

聞えてきた。

紅葉のさかりが過ぎ、客がめっきり少なくなった。おてつは今年は来ないそうだ。どうやら亭主のような者ができたらしい。そんなことをいねが云った。――それからつい二三日してのことであるが、いっしょに湯へはいったとき、いねがおなつの体を見てちょっと首をかしげるようにしながら「あんたあれじゃないの」こう云って、また胸乳のあたりを見た。

「おかしいわよ、ずっと順調にあるの」

おなつはどきっとした。手拭で胸を掩いながら、恥かしさと不安のために身を縮めた。そして問われるままに、北原の家を出てからずっとそれがなかったこと、自分ではただ単純な変調だと思っていたことを語った。

「それじゃたいていまちがいはないね、いちどみて貰うほうがいいわよ」

いねはこう云ったあとで、もしそうと定まったらよく考えて、始末するなら早いほうがよい、と、さりげない調子で云った。――それから数日して、いねの古い知己だという産婆が来た。まだ四十そこそこの、ひどくてきぱきした女だったが、ひととおりみたのち慥かに身ごもっていると云った。

「いいえよくあることですよ、ひと晩きりだからってちっとも珍しいことじゃありませんよ」