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ちぎりきぬ
契りきぬ
山本 周五郎
「ロマンス」ロマンス社、1949(昭和24)年10月~11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,757 字 · 66 页
ひじょうに意外だったが、彼はしらを切った。
――そんな者は来ない、会いもしない。
こう云いとおした。それで結局おなつはそのままどこかへ逃げたということになった。彼は自分のためにそんなことになったのだからと、おてつを呼んで、巧みに云いくるめて、おなつの借金を払い、証文を受取った。そうして、おなつの日常のようすを注意していた。彼女が足軽の娘であることや、そこへ身を堕した事情は、おてつから聞いて知っていたが、注意して見ると起居の作法もきちんとしているし、読み書きも、煮炊きも、縫いつくろいも、ひととおり以上のたしなみがある。――これは彼がそう認めるまえに、彼を育てた伊代のほうがさきに感心して、しきりにいい娘だと褒めだした。
――素性さえはっきりすれば、あなたのお嫁にほしいくらいですね。
そんなことを云うようになったが、精之助はその前後から自分でもそのつもりになり、三枝の叔父を訪ねてあらましの事情を『みよし』のことはべつにして――話した。すると叔父夫妻もいちど見ようということになり、二人で来ておなつを見たうえ、叔母のほうがこれまたすっかり惚れこんでしまった。