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おくのうみ
奥の海
久生 十蘭
「別冊週刊朝日」1956(昭和31)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,005 字 · 26 页
知嘉姫なら平気でやりぬくだろうと、かえって張合いができ、陸中の一ノ関から大槌街道へ折れ込み、千厩から気仙沼を一日で廻って、大船渡の湊に二日いた。
陸前竹崎まで戻って、遠野街道をとり、岩手八日町に一日、岩手上郷に一日いて消息をたずね、釜石へ廻って、そこに三日。それから北へ下って大槌の浦で二日。
宮古の津は諸国の人が集まるところだというので、宿々で人のうわさに耳を立てながら、宮古の浦へ行き、岩泉屋という宿で脚絆をといた。
天保のはじめころから、この浦に時知らずにくじらが寄るようになり、妓楼百軒という繁昌で、米のない土地から、人買いに買い出された女どもが、おおよそ千人ほども流れこんでいる。
金十郎は宮古に腰をすえ、網元の帳付の手伝いをしながら、消息をたずねまわったが、その年の暮までには、たよりらしいものも聞かれなかった。翌九年の五月、雪の消えるのを待ちかねて宮古をたち、岩手刈谷から茂市街道を通って落合まで行った。小本川に沿って小本の湊へ寄り、そこに一日いて、また落合へ引返した。
いわゆる、みちのくの海道と、一戸へ抜ける一戸街道の分れ道で、べつに陸中久慈から沼宮内に通じる山中道というのがある。