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おくのうみ
奥の海
久生 十蘭
「別冊週刊朝日」1956(昭和31)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,005 字 · 26 页
「そんな法令があるわけはない。また、あっていいわけのものではない」
盛岡領の宮古、釜石、大槌の浦浜で銛をうたれ、死んだり手負いになったりした鯨は、潮の加減で、この沖へ流れつくようになっている。
代々、白並の漁師原は羽矢銛一つ持たずに利を得て来たが、寄り鯨にすると、浜役人の手にかかるので、流れ鯨を沖で切刻んで切り鯨にし、津軽や松前へ持って行って金穀に替えてしまう。浜役人は白並とは言わない。白浪といっているくらいだが、いくら厳しく取締ってもやめないので、いきおい法令も苛酷にならざるをえなくなった。
「こんどの隠し鯨は、御船手付の船頭と舟子が、藩船を使ってやったという、性の悪い事件で、お船方は総体打首。お船手御小人は切腹を申付けられることになろう……。もっとも、口書をとって盛岡へ送り、御用部屋へおさまるまでには、早くとも三日はかかる」
川村孫助は、津軽の三厩から、松前まで半日の船旅にすぎないから、逃げ足の早いやつなら三日もあれば蝦夷の奥までも行けるだろう、という意味のことを言っているのだが、金十郎には通じなかったらしい。番所の窓から雪もよいの暗い海の色をながめていたが、