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おくのうみ
奥の海
久生 十蘭
「別冊週刊朝日」1956(昭和31)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,005 字 · 26 页
七戸領は盛岡二十万石の内証分で、殿様は七年前から御定府、家老と大番頭がいるが、藩政の大事は、本家の国家老の裁可を得て執行する慣例になっている。
川村は本家から派遣されている密事の一人で、盛岡藩では若年寄付小人、物産方という軽い役柄だが、七戸では藩政を監査し、時々の動静を本家へ報告する目付の役をつとめているというようなことであった。
「ひどく構えこんでいるが、むずかしい話でも持ってきたのか」
「お察しの通り、あまりいい話ではない。ときに、お手前は鯨分一ということを知っているか。鯨の上納金を鯨分一というのだ。船を出して銛で突きとめた、突き鯨にたいしては二十ノ一、死んで海岸に寄り着いた、寄り鯨にたいしては三ツ二つ、死んで海に浮んでいた流れ鯨の肉だけそぎとって来た切り鯨にたいしては二十ノ一、浜相場が立ってから、十日以内に上納金をおさめるきまりになっているので、隠し鯨は重罪だ。他領へ引いて行って売ったり、切り鯨を隠したことがわかれば打首。隠し鯨の饗応を受けたものも同罪である」
「饗応を受けて打首というのは、すこしひどすぎるようだな。いつからそんな法令ができたのか」