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おんなけんし
女剣士
「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页
大自然に溶けてしまいたかったのだ。
歌子は谷底を前にして、岩にもたれて惑った。眼を閉じたり、開けたりして。そして何も考えないで。父のことも考えないで。やがて歌子は放心からさめた。
月の出を待って歌子は歩きはじめた。死ぬことも忘れていたのである。可愛い雑兵が待っている。それでよいのだ。そして父の子を父のように育てるのだ。
歌子は一晩歩いて、翌る早朝わが家へ帰ってきた。彼女が丁度わが家へついたとき、寺田がリュウ/\とタンポ槍をしごいて存八の背後から突きかかった時であった。彼女は武者窓からその成行きをみんな眺めたのである。
「アッハッハッハ。それ」
と云って存八が左手の木刀で寺田の腰骨をなぐって打ち倒し、倒れた寺田には目もくれずに人形に向って突きの稽古をはじめたのを見て、歌子はにわかにムラムラと腹をたてた。
「なんて高慢な!」
ムカムカするほど不快がこみあげた。雑兵のくせに、なんたることだ。一刻も我慢ができなかった。
歌子は吊した荷を下して、木刀を握った。道場の戸口をくぐってズカズカと存八の前へすすみ、それに気がついて挨拶しようとする存八をいきなり打ちすえた。