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おんなけんし
女剣士
「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页
そのうちにだんだんものうくなった。習慣的に木刀をけずり、習慣的に心気を充足させて巨石に立ち向い、習慣的に脳天がしびれてひッくり返るけれども、他の事がすべてものうくなった。鳥獣を捉え木の実をとって食事するのもものうくなった。歩む足もものうくなった。
そして何より心気の安らぐのが、かの滝の裏で水浴することであった。彼はかの水中の石の上に腹をのせてひッくり返り、かの一物が山気生動し雲をひらく勢いの時には水面にその姿を現した往時をしのびつつ、かの一物のあたりを探ってみる。ない。雑兵の魂はあるが、もはや雑兵の姿はない。
「アハハハハ」
と彼は笑う。雑兵自身が笑うのだ。雑兵をあざ笑っているのではない。雑兵同士の親睦を意味するような笑いであった。
「よう、大将。貴公、首をチョン切られたのか」
というような笑いなのである。ここでは、いつものようにして、いつも笑う。親愛なる雑兵そのものになりきってひたる静かでかなり安らかな一刻だ。あの岩上ではかの千貫の大熊が岩にまたがってニジをはいたな、と思う。この幻想は美しい。雑兵の目にしみている現実なのだ。汚れのない幻想だ。雑兵はそれにひたりきることもできる。