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にょきゃくいっしゅうかん
女客一週間
豊島 与志雄
「新潮」1931(昭和6)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,724 字 · 26 页
ただ、外国人は別ね。いつまでも、トルストイだの、クロポトキンだの……。それでも、ナポレオンなんか、もとは名前よ。苗字はボナパルトというんだから……。」――それは詭弁だ。だがとにかく、彼女自身は、キミ子さんと皆から云われている。それがいつしか、耳になれてしまっているのだ。島村までがキミ子さんと呼んでいる。
キミ子が、女性だからよいが、男だったらそれでは少し変だったろう。然し、女だから困ることもある。彼女は自分の室で――アトリエの次の室で――よく髪を梳く癖があった。一寸した化粧道具は、浴室の脱衣場に、家のものと一緒に竝べているが、室にも櫛を一本置いていて、そこの鏡で、時きらわず髪を梳く。子供たちと遊んだり、掃除をしたりした後で、大して乱れてもいない短い毛を、さっさとなでつけるのだ。それが彼女の癖らしい。そのために、毛が落ち散ることがある。ところで、島村に云わすれば、女の毛髪は凡そ不潔なものの代表だ。垢と埃と油でこねあげたものだ。固より彼女の断髪は、油気の少いさっぱりしたものではあるが、それでも不潔なことを妨げない。掃除を一つの仕事にしている彼女としては、矛盾した仕業だ。