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おんなごころのつよければ

女心の強ければ

豊島 与志雄

「女性改造」1950(昭和25)年8月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,011 字 · 94 页

青空文庫

そのことも、僕ははっきり覚えています。」

千代乃は黙っていた。

「僕も、もう三十五にもなるし、多少の分別はあります。あなたの迷惑になるようなことはしません。然し、深く想おうと、浅く想おうと、それは僕の自由にさしといて下すっても、いいでしょう。」

「いいえ、違いますの。そんなことじゃありません。」

「では、どういうことですか。」

「わたし自分のことなの。」

「僕は、僕の方のことを言ってるんですが……。」

「違います。わたしのことよ……分らないの?」

ふいに、片手を差しのべ、彼を打つまねをしかけたが、とたんにその手を引っこめ、ぽつりと瞼にたまった涙を、指の甲で拭いた。それを押し隠すように立ち上って、縁側に出てゆき、硝子戸を開いて、外を眺めた。

長谷川にとっては、全く思いもかけない所作だった。彼はただ酒を飲むより外はなかった。

千代乃は座に戻ってきて、まだ硝子戸の方へ眼をやりながら言った。

「お酒は、もうよしましょうよ。霧がはれかかってきたようなの。裏山にでも登ってみましょうか。霧の上から富士山が見えてくるところは、きれいですよ。」

何を言ってることやら、気まぐれにも程がある、と長谷川は思った。