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おんなごころのつよければ

女心の強ければ

豊島 与志雄

「女性改造」1950(昭和25)年8月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,011 字 · 94 页

青空文庫

「雨が降れば、出て来ますよ。」

「こないだのような晩にでしょう。」

「あら。」

千代乃は睥むまねをして、そして笑った。

死体と沢蟹の話も、もう遠くなっていた。

突然、裏口の戸が激しく叩かれた。遠慮のない叩き方だった。

千代乃が立ってゆき、戸を開くと、辰さんが提灯をさげて佇んでいた。

「旦那が見えましたよ。いま、湯にはいっておいでだが、食事は、あちらか、こちらか、さて、どっちかな。なにか、御用はありませんか。」

家の中まで筒ぬけの大きな声だ。

千代乃はまた戸締りをして戻ってきた。

「柿沼さんですか。」

「そうなの。」

彼女は落着きはらって、猪口を取り上げ、飲んだ。

「いつも、ふいにやって来るのよ。だから、少しぐらい酔っていたって構やしないわ。」

だが、長谷川はさすがに落着けなかった。千代乃の様子が、太々しいとさえ思われた。黙りこんで、急いで酒を飲み、二階に上っていった。千代乃があとからついて来て、布団を敷いてくれた。

「あ、忘れていた。髪を結わなくちゃならないわ。」

長谷川の眼をじっと見て、指先の方を痛いほど握りしめた。

「おやすみなさい。」

彼女の長い散らし髪が、長谷川の眼の底に残った。