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おんなごころのつよければ

女心の強ければ

豊島 与志雄

「女性改造」1950(昭和25)年8月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,011 字 · 94 页

青空文庫

門燈のまばらな薄暗い裏通りを、長谷川は首垂れがちに歩いてゆき、横へ折れ曲ろうとした。その時、後ろから久恵に呼び止められた。

久恵は彼の顔をすかし見て、低い声で言った。

「敏子がいましたので、黙っておりましたけれど……。」

しばらく後がとぎれた。

「一昨日、柿沼さんが見えまして、ほんの玄関先だけのことでしたが、千代乃さんが来たら、至急逢いたいことがあると伝えてくれと、それだけのお話でした。時間はとらせない、場所はどこでもよいと、たったそれだけでしたが……。」

久恵はまた長谷川の顔をすかし見た。

「千代乃さんは、ほんとにまたこちらへ出て来るんでしょうか。」

長谷川は腕を組んだ。

「柿沼さんの話は、それだけのことですか。」

「それきりですよ。なんだか、お急ぎのようで、立ったまま、すぐに帰っていかれました。」

「そうですか。なにか用が出来たんでしょう。千代乃さんが来たら、伝えておあげなさいよ。」

久恵はまだあとあとを待つように、じっとしていた。長谷川は突然言った。

「たったそれだけのこと、敏子さんの前で、どうしていけないんです。」

「いけないことはありませんが、あの子、なんでも饒舌ってしまいますんでねえ、千代乃さんにでも誰にでも……。