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こうい
好意
豊島 与志雄
「改造」1924(大正13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,059 字 · 40 页
然し僕は何も、吉岡君がいつ死ぬかも分らないから今のうちにって、そんな気持は少しもなかったのだ。あんまりひどい誤解だ。或は妻にはそんな気持が多少あったかも知れない。早くお返ししなければ済まないと始終言ってたから。然しそれは女のことだから、大目に見てやってもいいと思う。そして僕達は二人共、金を返せば恩義までも返してしまうと、そんな考え方は少しもしてやしないんだ。僕はただ感謝の念だけしか持ってやしなかった。ただ一つ、変な気持が動いてたことは事実だが……。」
「変な気持って、差支なかったら話して見給いな。」
河野は可なりの間左手で※(「臣+頁」、第4水準2-92-25)をひねって考えていたが、私の方をじっと見ながら云い出した。
「これは恐らく僕の僻みかも知れないが……いや屹度、恩義を受けた者の忘恩な僻みだろう。吉岡君は、もうあれから四年にもなるが、金のことなんか気にも出さないで、逢えばいつでも僕の芸術のことばかり尋ねてくれた。所が不思議にも、それが僕には非常につらかったのだ。金を出してくれた時、吉岡君は僕にこう云った。金のことは気にかけないがいい、返そうと返すまいと、そんなことは君の都合でどうだっていい、ただ立派な作品を生んでくれ給え、そして、気に入ったのが出来たら僕に一枚くれ給えと。