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ようえい

妖影

大倉 燁子

「オール読物」文芸春秋、1934(昭和11)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,489 字 · 22 页

青空文庫

日本にもよほどながくいられたと見えて、まるで日本人ですね」

「そうです。言葉もうまいしね。しかしまあお気の毒ですよ。お嬢さんがあんなに体が弱っているので、お父さんがお守りをしながら、気候の好いところ、気候の好いところと世界中を遊んで歩いていられるんだそうです」

「結構な御身分ですな」

「何しろ金があるから」

事務長は羨しそうに云うのだった。

夕食の時、少し遅れて食堂へ入ると、もう例の二人は卓子に着いていた。

お嬢さんは手を動かすのさえ苦しそうで、見ていても痛々しい。極めて物静かに少しの音もたてずに食事をしていた。始終伏目になっていて殆んど顔を上げない。長い睫毛は頬の上にうっすりと影を落している。美しい女だな、と、心の中で感歎した。

私はお嬢さんの方ばかり気を付けて見ていたので、お父さんの方は一向注意をしなかったが、何かの拍子にふと見ると、どうも不思議な癖のあるのに驚いた。一種の神経痙攣とでもいうのだろうか、卓上の物を取ろうとして手を延ばす時、彼の手がその物を掴む前に空中に英字のようなものを描くのだ。最初は誰かに合図しているのかと思った。しかしそうではないらしい。