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つまにしつれんしたおとこ
妻に失恋した男
江戸川 乱歩
「産業経済新聞」1957(昭和32)年10月6日、13日、20日、27日、11月3日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,695 字 · 12 页
したがって、口中にピストルをうちこんだ死体を見たら、だれでも自殺としか考えないでしょう。その裏をかいたのがこの犯罪でした。
歯科医はいろいろな金属の器具を患者の口の中に入れて治療します。そのとき患者はたいてい眼をつぶっているものです。たとえ眼をあいていても、視角をはずして下の方からピストルを近づけ、その先を口の中へ入れれば、やはり治療の器具だとおもって、患者はじっとしているでしょう。そこで手早く発射すればよいのでした。
そのとき看護婦はもう家へ帰っていましたし、女中は口実を設けて使いに出してありました。また、問題のピストルは、みや子が主人の机の引出しの奥から取り出して、前もって琴浦に渡しておいたのです。
ピストルのたまが南田の頭蓋骨を貫通し、枕の木をつらぬいて床におちたのを、あとで、南田家の書斎の壁に叩きこんでおいたというのです。柔かいものを当てて、金ヅチで叩いたのです。
この犯罪には、もう一つ都合のよい条件がありました。南田家と歯科医院は、表から回れば三分もかかりますが、裏口は、草のしげった空き地をへだてて、つい目と鼻のあいだに向かい合っていたことです。