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つまにしつれんしたおとこ

妻に失恋した男

江戸川 乱歩

「産業経済新聞」1957(昭和32)年10月6日、13日、20日、27日、11月3日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,695 字 · 12 页

青空文庫

こういうものだと思っていた。二年三年とたつにつれて、だんだんわかってきた。あいつがおれを少しも愛していないことがだよ。不幸なことに、おれの方では逆に、年がたつほど、いよいよ深く、あいつにほれて行ったのだ。そして、半年ほど前から、その不満が我慢できないほど烈しくなってきた。こうもきらわれるものだろうか。だが、いくらきらわれても、おれはあいつを手ばなすことはできない。ほれた相手に代用品なんかあるもんか。ああ、おれはどうすればいいのだ。

おれは、あいつを殺してやろうと思ったことが、何度あるかしれない。だが、殺してどうなるのだ。相手がいなくなったからって、忘れられるもんじゃない。おれは失恋で死んでしまうだろう。

しかし、もう一日もこのままじゃ、いられない。あいつが殺せないなら、おれが死ぬほかないじゃないか。おれは死にたい、死にたい、死にたい」

こんなよまいごとを、直接聞いたわけじゃありません。南田収一が酔ったまぎれに、涙をこぼしながら、わめきちらしたことが、たびたびあったと、南田の親しい友だちから、あとになって聞きこんだのです。その友だちは、こわいろ入りで話してくれましたが、まあこんなふうだったろうと、わたしが想像してお話しするわけですよ。