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つまのざ
妻の座
壺井 栄
「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页
「どう?」
考えぶかく貞子はきく、ミネは微笑して、
「どうったって、案内されたら行かないわけにはゆかないわ。それほど気がちっちゃくないつもりですがね。それとも、出るのが変かしら、出ないと尚変じゃない? それはそれ、これはこれ。」
「そうだわね。」
貞子は安心した顔で、
「そういってやるわ。野村さん喜ぶわよ。」
「でも、ちょっとまって、案内状下さるんだったら、あなたを通してにしてもらいたいの。見つかるとやっぱりね。」
話はさらっと片づいた。その日は閑子にだまって出かけようと思った。裾模様や紋つきをきるわけでないから、かんたんだ。そんな風に平気だったのに、貞子の家を出たとたんにミネの胸はゆれた。沈丁花の匂う家々の前をすぎ、小さな流れの橋を渡って田圃道にさしかかるとミネはううっと声をあげて泣いた。夕暮のせまった人通りのない畑道を、ミネは胸をかかえるようにしてうつむいて歩いた。おしまいだ、これでおしまいだと心の中でくりかえしていた。何がおしまいなのか。別に閑子への希望をもっていたわけでもないのに、まるで望みの綱が切れでもしたように涙がでた。野村のためにそれは喜ぶべき首途なのに、そして又、閑子だとてそれで一そうはっきりしたわけなのに、何のための涙だろうか。