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つまのざ
妻の座
壺井 栄
「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页
「あなたはぼくを知らないでしょうがね、ぼくはあなたを知ってますよ。こないだ僕たちの地区の読書会でね、あなたの小説が問題になりましてね。」
ゆっくりとした調子でいう。
「あら、そうですか。」
ミネはようやく笑いから自分をとり戻していった。
「あなたは、奥さんをつれてこなかったのですか。」
すると彼は少しばかりきまり悪るそうな顔で、
「これなんでね。」
と、片手で腹部を大きくしてみせた。コーラスが聞えてくる。若々しい声だった。それを聞くと貞子はつま先立って舞台の方をみた。貞子の息子もコーラス隊に加っている筈だった。遠く離れた舞台には二十人程の男女が、腕を組み、からだを左右にふりながら歌っている。歌声はスピーカーで耳のそばまできているが、顔の見さかいはつかなかった。一番背の高いのがうちの息子だろうと、貞子はしきりにのび上ってみていた。そこへ、争議に入っている日本タイプの若い女たちが基金箱をもってあらわれた。赤い鉢巻をして、元気な顔をしていた。鳩の巣箱のような基金箱を胸にかかえて人々の間を回ると、めいめいがま口をあけて待っていた。近づくと我も我もと箱の中へ手がのびた。