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つまのざ
妻の座
壺井 栄
「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页
口の中で何かいったけれど、ミネには聞きとれなかった。
いよいよ、やってきた!
胸の動悸が音を立てるほどはげしくなった。便所へいってミネは手紙を開いた。
この手紙があなたにどんな悲しみをあたえるかと思うと容易にかけません――
ミネはあわててまた手紙をもとに納めた。
――ひどい。こんな場所で、いきなりこれを渡すなんて。
気持を乱されたことに憤りに似たものを感じながら、ミネは席にもどった。壇上では貞子の夫であった評論家の田沢が量のある声でさっきからのつづきを話している。そのわきの議長席には悠吉がむずかしい顔で控えていた。ミネの頭に何にも入ってこないうちに田沢の報告は終り、悠吉が立って何か小さな声でいった。すると議長、と呼びながら右手よりの前の方の席から野村が立ち上った。底沈みのした蒼い横顔をみせて質問をはじめたが、野村の声が低いのかミネの席が離れているのか、少しも言葉が分らない。老人のように耳に手をやったが、やはり聞えない。悠吉の声も分らなかったのだ。ミネは、のぼせあがって自分の耳が変になっていると思った。野村の顔をみていると、夫婦の間の面白くなさが顔色にまで淀んでいるように思えて、せまるものがあった。