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つまのざ
妻の座
壺井 栄
「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页
泣かない野村はもっと真剣であり、それがミネにとって納得出来がたいことであろうとも、もっと切実な苦悩を味っているにちがいなかった。
「野村さんの気持の中には、まだ前の奥さんは生きているんですもの。そこへ閑子が坐れる筈がない。」
「困ったわね。」
もう手だてはないのだという声で、貞子はまたためいきをした。しばらく二人ともだまっていた。ミネはふと、公平な立場にいる貞子の気持の複雑な動きを、ひが目で感じたりした自分を恥かしく思い、目をそらしてほかごとをいった。
「今年の秋、何だか早いわね。」
「そうね。」
貞子の部屋から見える広い庭の隅の木犀の繁みに這い上っている自然薯の葉が黄色く紅葉し、楓のもみじと共にときわ木を背景にして美しい友ぜん模様を染め出しているのだった。
貞子に引きとめられ、ミネは夕飯をごちそうになってから、いそいで帰った。長尻に眉をひそめている悠吉の顔がミネの胸に重たかった。女なんて、どうしてこんな思いをしなければならないのかしら。男の帰りが少々おそくても、たとえ夜中になったとて女は眉をしかめはしないのに。しかも、われわれの間でなんだからおかしな話さ――。