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つまのざ

妻の座

壺井 栄

「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页

青空文庫

あのときはミネもまだ若かった。短気に離婚などしていたなら、どうなっていたろうと思うと閑子にもまして愚かな姿で泣き悲しんだ自分を、閑子の今の姿と見比べずにいられない。しかし、比べるには問題はあまりにちがう。閑子にだまって出ていってほしいという、つまり夫婦としての結びつきの殆どない野村に比べて、ミネたちは単純極まる夫婦であった。悠吉に問題の起った直後のことだ。二階の段梯子の上からあっという間に足を辷らせた悠吉が、下まで落ちたことがある。だだだだっと、ひどい音を立てて、尻もちをついたなり、身うごきもしないで痛さをこらえている悠吉が、やっといきをつきながら最初にいった言葉は、

「お前でなくてよかったなあ!」

板の間の隅に巻いて立てかけてあったしきのし茣蓙が、思うさまの足の力で圧されて、まんなかを煎餅にへこまして曲っていた。ミネはその時のことをよく思い出す。

「あんたがね、もしも私より先に死んだら、思い出の文章の中へ、このことだけは忘れずに書くわね。彼はそのように愛妻家であったって。」そんな冗談をいったことも度々ある。しかし二人は今もって角つきあいのたえない夫婦である。