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つまのざ

妻の座

壺井 栄

「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页

青空文庫

家出をした妻のためには出かけてこない野村が、戻って行った妻のことではあわててやってきて引きとってくれというのだ。そこに野村の気持の正直さが現れているとは言え、これではあまりにも無責任だ。

「つれてきて下さるなり、よこして下さるなりすればよかったのに。」

腹立ちをかくしてミネはいった。

「ところが僕は、閑子さんに気の毒でね、いえないんです。いや、何ともまったく、わがままないい分ですが、ミネさんにつれてきてもらって、よく話してもらうのが一番いいと思って。」

おびえたような目をはげしく目たたきながらいう。

「閑子にいわずにですか。今あなたがここへいらしたことも閑子はしらないんですか。」

「そうです。ぼくの日記をよんだとかいってゆうべは大分興奮していましたからね。」

自信のない、ふぬけたような、低いしゃあがれ声である。ここまできて、まだ真実を伝えられないとは。それとも、無責任といわれようとも、かかずらってはいられないほど、反吐の出そうな存在で閑子はあるのだろうか。重たさに堪えかねて投げ出した荷物に、再び手を出しかねるような、いやなことに対するどうにもしようのない気持、何でもかでも逃れたい気持、それはミネも分らなくはない。