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むすめとおおきなかね
娘と大きな鐘
小川 未明
「赤い鳥」1924(大正13)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,769 字 · 8 页
お坊さまは前歯の抜けた口をもぐもぐさしながら、
「赤いすいれんの花を煎じて飲めば、たいていの病気はなおるものじゃ。」と、答えました。
娘は、寺を出て、里川をたずねて歩きました。どこを見ても、赤いすいれんは咲いていませんでした。一つ山を越して、そこには、大きな池があります。大空に漂っている、夏の雲が、静かな水の面に、影を映していました。娘はその淵に立って、水の上を見ますと、そこに、赤いすいれんの花が、二つ三つ、ちょうど星のように、美しく咲いていたのであります。
「まあ、きれいだこと。これを採ってお父さんのところへ持ってゆこう。」と、娘は思いました。
娘は、手をさしのべて、赤い花を取ろうとして、水の中に指をいれますと、どこからか銀光りのする白い糸のようなものが、手くびにからまって、しっかりと巻きつきました。そして、するすると娘を引きずって、だんだん深みへといれてしまいました。
「あれ!」といって、娘は、声をたてる暇もなく、姿が水の中に没しますと、そこに、それはそれはりっぱなお寺が、水の中にあらわれて、池の底の方から、鐘の音が響いてきたのであります。
ちょうど、それと同じ時刻に、寺の鐘つき堂につるしてある鐘の太い綱が切れて、鐘は、地ひびきをたてて下に落ちたのでした。