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むすめ
娘
岡本 かの子
「婦人公論」1939(昭和14)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,846 字 · 16 页
その漕ぎ連れ方には愛の力が潜んでいて、それを少しずついたわりに変え、女を脅かさぬように気をつけながら大ように力を消費して行くかのようである。
青年の人柄も人柄なら、その技倆にも女の魂を底から揺り動かす魅力があった。室子がいくら焦って漕いでも、相手の艇頭はぴたと同じところにある。恥かしさと嬉しさに、肉体は溶けて行くようだった。
それだけ彼女には異常な圧迫感が加わる。今まで、自由で、独自で自然であった自分が手もなく擒にされるのだ。添えものにされ、食われ、没入されてしまうのだ。
何と、うしろからバックされて行く自分の姿のみじめなことよ。今まで誇っていた技倆の覚束ないことよ。自分の漕いで行く姿が、だんだん碕形になる事が、はっきり自分に意識される。
二つの橋が、頭の上を夢の虹のように過ぎる。室子は疲れにへとへとになり、気が遠くなりながら、身も心も少女のようになって、後からの強い力に追われて行く――この追い方は只事では無い。愛の手の差し延べ、結婚の申込みでは無かろうか。カンとカンで動く水の上の作法として、このようなことも有り得るように思う。
眼が眩んで来て星のようなものが左右へ散る。