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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
とそこで一つ腰を屈めて、立直った束髪は、前刻から風説のあった、河野の母親と云う女性。
黒の紋羽二重の紋着羽織、ちと丈の長いのを襟を詰めた後姿。忰が学士だ先生だというのでも、大略知れた年紀は争われず、髪は薄いが、櫛にてらてらと艶が見えた。
背は高いが、小肥に肥った肩のやや怒ったのは、妙齢には御難だけれども、この位な年配で、服装が可いと威が備わる。それに焦茶の肩掛をしたのは、今日あたりの陽気にはいささかお荷物だろうと思われるが、これも近頃は身躾の一ツで、貴婦人方は、菖蒲が過ぎても遊ばさるる。
直ぐに御歩行かと思うと、まだそれから両手へ手袋を嵌めたが、念入りに片手ずつ手首へぐっと扱いた時、襦袢の裏の紅いのがチラリと翻る。
年紀のほどを心づもりに知っため組は、そのちらちらを一目見ると、や、火の粉が飛んだように、へッと頸を窘めた処へ、
「まだ、花道かい?」
とお蔦が低声。
「附際々々、」
ともう一息め組の首を縮める時、先方は格子戸に立かけた蝙蝠傘を手に取って、またぞろ会釈がある。
「思入れ沢山だ。いよう!」
おっとその口を塞いだ。声はもとより聞えまいが、こなたに人の居るは知れたろう。