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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

ですから、後で叱られますから、貴下、ともかくもお帰んなすって……」

「ならん! この場に及んで分別も糸瓜もあるかい。こんな馬鹿は、助けて返すと、婦を連れて駈落をしかねない。短兵急に首を圧えて叩っ斬ってしまうのだ。

早瀬。」

と苛々した音調で、

「是も非も無い。さあ、たとえ俺が無理でも構わん、無情でも差支えん、婦が怨んでも、泣いても可い。憧れ死に死んでも可い。先生の命令だ、切れっちまえ。

俺を棄てるか、婦を棄てるか。

むむ、この他に言句はないのよ。」

(どうだ。)と頤で言わせて、悠然と天井を仰いで、くるりと背を見せて、ドンと食卓に肱をついた。

「婦を棄てます。先生。」

と判然云った。そこを、酌をした小芳の手の銚子と、主税の猪口と相触れて、カチリと鳴った。

「幾久く、お杯を。」と、ぐっと飲んで目を塞いだのである。

物をも言わず、背向きになったまま、世帯話をするように、先生は小芳に向って、

「そっちの、そっちの熱い方を。――もう一杯、もう一ツ。」

と立続けに、五ツ六ツ。ほッと酒が色に出ると、懐中物を懐へ、羽織の紐を引懸けて、ずッと立った。

「早瀬は涙を乾かしてから外へ出ろ。