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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

「また、水いたずらをしているんですね。」

と顔を視めて元気らしく、呵々と笑うと、柔い瞳が睨むように動き止まって、

「金魚じゃなくってよ。硯を洗うの。」

「ああ、成程。」

と始めて金盥を覗込んで俯向いた時、人知れず目をしばたたいたが、さあらぬ体で、

「御清書ですかい。」

「いいえ、あの、絵なの。あの、上手な。明後日学校へ持って行くのを、これから描くんだわ。」

「御手本は何です、姉様の顔ですか。」

「嘘よ、そんなものじゃないわ。ああ、」

と莞爾して、独りで頷いて、

「もっと可いもの、杜若に八橋よ。」

「から衣きつつ馴れにし、と云うんですね。」

と云いかけて愁然たり。

お妙は何の気もつかない、派手な面色して、

「まあ、いつ覚えて、ちょいと、感心だわねえ。」

「可哀相に。」

と苦笑いをすると、お妙は真顔で、

「だって、主税さん、先年私の誕生日に、お酒に酔って唄ったじゃありませんか。貴下は、浅くとも清き流れの方よ。ほんとの歌は柄に無いの。」

とつけつけ云う。

「いや、恐入りましたよ。(トちょっと額に手を当てて、)先生は?」と更めて聞くと、心ありげに頷いて、

「居てよ、二階に。」(おいでなさいな。