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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

」

「英吉君には御懇親に預ります、早瀬主税と云うものです。」

と青年は衝と椅子を離れて立ったのである。

「まあ、早瀬さん、道理こそ。貴下は、お人が悪いわよ。」と、何も知った目に莞爾する。

主税は驚いた顔で、

「ええ、人が悪うございますって? その女俳優、と言いました事なんですかい。」

「いいえ、家が気に入らない、と仰有って、酒井さんのお嬢さんを、貴下、英吉に許しちゃ下さらないんですもの、ほほほ。」

「…………」

「兄はもう失望して、蒼くなっておりますよ。早瀬さん、初めまして、」

とこなたも立って、手巾を持ったまま、この時更めて、略式の会釈あり。

「私は英さんの妹でございます。」

「ああ、おうわさで存じております。島山さんの令夫人でいらっしゃいますか。……これはどうも。」

静岡県……某……校長、島山理学士の夫人菅子、英吉がかつて、脱兎のごとし、と評した美人はこれであったか。

足一度静岡の地を踏んで、それを知らない者のない、浅間の森の咲耶姫に対した、草深の此花や、実にこそ、と頷かるる。河野一族随一の艶。その一門の富貴栄華は、一にこの夫人に因って代表さるると称して可い。