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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

袖が擦合うたまま、夫人がまだ取られぬのを、離すと落ちるし、そうかと云って、手はかけているから……引込めもならず……提げていると……手巾が隔てになった袖が触れそうだったので、二人が斉しく左右を見た。両側の伏屋の、ああ、どの軒にも怪しいお札の狗が……

貸小袖

十五

今来た郵便は、夫人の許へ、主人の島山理学士から、帰宅を知らせて来たのだろう……と何となくそういう気がしつつ――三四日日和が続いて、夜になってももう暑いから――長火鉢を避けた食卓の角の処に、さすがにまだ端然と坐って、例の(菅女部屋。)で、主税は独酌にして、ビイル。

塀の前を、用水が流るるために、波打つばかり、窓掛に合歓の花の影こそ揺れ揺れ通え、差覗く人目は届かぬから、縁の雨戸は開けたままで、心置なく飲めるのを、あれだけの酒好が、なぜか、夫人の居ない時は、硝子杯へ注ける口も苦そうに、差置いて、どうやら鬱ぐらしい。

襖が開いた、と思うと、羽織なしの引掛帯、結び目が摺って、横になって、くつろいだ衣紋の、胸から、柔かにふっくりと高い、真白な線を、読みかけた玉章で斜めに仕切って、衽下りにその繰伸した手紙の片端を、北斎が描いた蹴出のごとく、ぶるぶるとぶら下げながら出た処は、そんじょ芸者の風がある。