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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

逢うが別れの今世に、臨終のなごりを惜むため、華燭銀燈輝いて、見返る空に月のごとき、若竹座を忍んで出た、慈善市の光を思うにつけても、横町の後暗さは冥土にも増るのみか。裾端折り、頬被して、男――とあられもない姿。ちらりとでも、人目に触れて、貴女は、と一言聞くが最後よ、活きてはいられない大事の瀬戸。辛く乗切って行く先は……実の親の死目である。道子が心はどんなであろう。

大巌山の幻が、闇の気勢に目を圧えて、用水の音凄じく、地を揺るごとく聞えた時、道子は俤さえ、衣の色さえ、有るか無きかの声して、

「夢ではないのでしょうかしら。宙を歩行きますようで、ふらふらして、倒れそうでなりません。早瀬さん、お袖につかまらして下さいまし。」

「しっかりと! 可い塩梅に人通りもありませんから。」

人は無くて、軒を走る、怪しき狗が見えたであろう。紺屋の暖簾の鯛の色は、燐火となって燃えもせぬが、昔を知ればひづめの音して、馬の形も有りそうな、安東村へぞ着きにける。

四十二

道子は声もうように、

「ここは野原でございますか。」

「なぜ、貴女?」

「真中に恐しい穴がございますよ。」