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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

」

と口の裡に独言きつつ、

「お気味が悪くっても、胸へためて、ぐっと上げて、足袋との間を思い切って。ああ、おいたわしいな。」

「厭でございますね。」

「御免なさいよ。」

と言うが疾いか、早瀬の手は空を切って、体を踞んだと思うと、

「あれ、」

かっとなって、ふらふらと頭重く倒れようとした――手を主税の肩に突いて、道子はわずかに支えたが、早瀬の掌には逸早く壁の隅なる煤を掬って、これを夫人の脛に塗って、穂にあらわれて蔽われ果てぬ、尋常なその褄はずれを隠したのであった。

「もう、大丈夫、河野の令夫人とは見えやしない。」

と、框の洋燈を上から、フッ!

留南奇を便に、身を寄せて、

「さあ、出掛けましょう。」

胸に当った夫人の肩は、誘わるるまで、震えていた。

この横町から、安東村へは五町に足りない道だけれども、場末の賤が家ばかり。時に雨もよいの夏雲の閉した空は、星あるよりも行方遥かに、たまさか漏るる灯の影は、山路なる、孤家のそれと疑わるる。

名門の女子深窓に養われて、傍に夫無くしては、濫りに他と言葉さえ交えまじきが、今日朝からの心の裡、蓋し察するに余あり。

我は不義者の児なりと知り、父はしかも危篤の病者。