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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
早瀬は氷を浴びたように悚然とした。
「お蔦さんに託ったの。あの、記念にね、貴下に上げて下さいッて、主税さん、」
と向う状に、椅子の凭に俯伏せになると、抜いて持った簪の、花片が、リボンを打って激しく揺れて、
「もうその他には逢えないのよ。」
お蔦の記念の玉の緒は、右の手に燃ゆるがごとく、ひやひやと練衣の氷れるごとき、筒井筒振分けて、丈にも余るお妙の髪に、左手を密と掛けながら、今はなかなかに胴据って、主税は、もの言う声も確に、
「亡くなったものの髪毛なんぞ。……
飛んでも無い。先生が可い、とおっしゃいましたか、奥様が可い、とおっしゃったんですかい。こんなものをお頭へ入れて。御出世前の大事なお身体じゃありませんか。ああ、鶴亀々々、」
と貴いものに触るように、静にその緑の艶を撫でた。
「私、出世なんかしたかないわ。髪結さんにでも何にでもなってよ。」
と勇ましく起直って、
「父さんがね、主税さん、病気が治ったら東京へお帰んなさいッて、そうして、あの、……お墓参をしましょうね。」
日蝕
五十一
日盛りの田畝道には、草の影も無く、人も見えぬ。村々では、朝から蔀を下ろして、羽目を塞いだのさえ少くない。