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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

電車

三十二

河野から酒井へ申込んだ、その縁談の事の為ではないが、同じこの十二日の夜、道学者坂田礼之進は、渠が、主なる発企者で且つ幹事である処の、男女交際会――またの名、家族懇話会――委しく註するまでもない、その向の夫婦が幾組か、一処に相会して、飲んだり、食ったり、饒舌ったり……と云うと尾籠になる。紳士貴婦人が互に相親睦する集会で、談政治に渉ることは少ないが、宗教、文学、美術、演劇、音楽の品定めがそこで成立つ。現代における思潮の淵源、天堂と食堂を兼備えて、薔薇薫じ星の輝く美的の会合、とあって、おしめと襷を念頭に置かない催しであるから、留守では、芋が焦げて、小児が泣く。町内迷惑な……その、男女交際会の軍用金。諸処から取集めた百有余円を、馴染の会席へ支払いの用があって、夜、モオニングを着て、さて電燈の明い電車に乗った。

(アバ大人ですか、ハハハ今日の午後。)と酒井先生方の書生が主税に告げたのと、案ずるに同日であるから、その編上靴は、一日に市中のどのくらいに足跡を印するか料られぬ。御苦労千万と謂わねばならぬ。

先哲曰く、時は黄金である。