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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
」
と少し言が和らいで来たので、主税は吻と呼吸を吐いて、はじめて持扱った三世相を懐中へ始末をすると、壱岐殿坂の下口で、急な不意打。
「お前の許でも皆健康か。」
また冷りとした。内には女中と……自分ばかり、(皆健康か。)は尋常事でない。けれども、よもや、と思うから、その(皆)を僻耳であろう、と自分でも疑って、
「はい?」
と、聞直したつもりを、酒井がそのまま聞流してしまったので(さようでございます。)と云う意味になる。
で、安からぬ心地がする。突当りの砲兵工廠の夜の光景は、楽天的に視ると、向島の花盛を幻燈で中空へ顕わしたようで、轟々と轟く響が、吾妻橋を渡る車かと聞なさるるが、悲観すると、煙が黄に、炎が黒い。
通りかかる時、蒸気が真白な滝のように横ざまに漲って路を塞いだ。
やがて、水道橋の袂に着く――酒井はその雲に駕して、悠々として、早瀬は霧に包まれて、ふらふらして。
無言の間、吹かしていた、香の高い巻莨を、煙の絡んだまま、ハタとそこで酒井が棄てると、蒸気は、ここで露になって、ジューと火が消える。
萌黄の光が、ぱらぱらと暗に散ると、炬のごとく輝く星が、人を乗せて衝と外濠を流れて来た。