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よめとりむことり

嫁取婿取

佐々木 邦

「婦人倶楽部」1929(昭和4)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 85,654 字 · 175 页

青空文庫

高円寺道の深さ

と三郎君は何処までも論理的にこなして行く。

高円寺道の深さ

「唯今」

と言って、長船君は玄関の格子を開けた。小学生が学校から帰ったようだが、この唯今には謂われがある。以前は、

「唯今戻った」

とやったものだ。しかし春子さんは嫁ぐと間もなく、

「あなた。唯、『帰ったよ』と仰有って戴けませんこと?」

と註文した。

「何故?」

「お芝居の真似みたいで変じゃございませんか? この間郵便屋さんが来合せて笑っていましたわ」

「ふうむ」

「自分の家ですもの、そんなに改まらなくても宜しいじゃございませんか?」

「しかしお母さんに具合が悪い」

「何故でございますの?」

「お父さんも確か然う仰有ったようだから、家風を崩したくないのさ」

と長船君は主張したが、結局、

「唯今」

丈けに改めたのである。しかしお母さんの姿が見えると、

「唯今戻った」

と完全にやり直す。

「あなた、里へお出になった時、『頼もう』と仰有るのはよして戴けませんこと?」

と春子さんは又註文した。

「何故?」

「皆が後で笑うんですもの」

「むずかしいんだね、お前の里は」

「あなたがむずかしいことばかり仰有るからですわ」

「それじゃ何と言えば宜い?」