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がくいについて

学位について

寺田 寅彦

「改造 第十六巻第五号」1934(昭和9)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,656 字 · 17 页

青空文庫

少なくも全然無価値ではなく、全部が誤謬ではないであろうということはほとんど疑う余地のないことであろうと思われる。

さて、それほどに事柄が明白ならば、一体どうして、そんな不祥な問題が発生し得るか。価値のあるものなら通過し、ないものは通過しないと決まっているのなら、私利私情などというものの入り込む余地はないではないかということになる。正にその通りである。それだのに実際上は事柄がその通り簡単にゆかないのは何故かというと、それは論文の「価値」というものの批判が非常に複雑困難なものであって、その批判の標準に千差万別があり、従って十人十色の批評者によって十人十色の標準が使用されるから、そこに批判の普遍性に穴があり、そこへ依怙の私と差別の争いが入り込むのであろう。

ある学者甲が見ると相当な価値があり興味があると思われる一つの論文が、他の学者乙の眼から見るとさっぱり価値のない下らないものに見えることがあり、また反対に甲の眼には平凡あるいは無意味と映ずる論文が、乙の眼には非常に有益な創見を示すものとして光って見えることが可能であるのみならず、そういう実例も決して珍しくはないのである。