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あんじゅうこん

安重根

谷 譲次

――十四の場面――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,548 字 · 100 页

青空文庫

老婆 おや、それじゃあきっと自家の若い人たちと一緒ですよ。安重根とかいう人が来たと言って、商売をおっぽり出して駈け出して行きましたから。

劉任瞻 困ったものだ。わしはいつも東夏に言って聞かせているのだが、職業や勉強を蔑にして何が国家だ。何が社会だ。独立が聞いて呆れる。ちっとやそっとの人間が騒いだところで、世の中はどう変るものでもないのだよ。長い間生きて来て、わしや古着屋のお婆さんが一番よく知っているはずだ。なあ、お婆さん。

老婆 そうですともさ。

劉任瞻 世の中は理窟ではない。いや、たった一つ理窟があるとすれば、それは、強い者が勝ち、弱いものが負けるという理窟だけだ。強い者は勝って得をし、弱いやつは負けて損をする。しかし、その強い者もいつまでも強いというわけではなし、弱いものもやがては強くなる時があろう。上が下になり、下が上になるのだ。こうして世の中は、大きく浪を打って進んで行くので、百万陀羅議論を唱えても、どうなるというものではない。待つのだ。強い者が弱くなり、弱い者が強くなる時を待つのだ。ははははは、じっと待つのだよ。待ちさえすれば、その時機は必ず来る――。