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あんじゅうこん
安重根
谷 譲次
――十四の場面――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,548 字 · 100 页
同志などという弥次馬連中に唆かされたんでもなければ、それかと言って、禹徳淳のように、例えば今日伊藤を殺しさえすれば、同時にすべての屈辱が雪がれて、明日にも韓国が独立して、皆の生活がよくなり、自分の煙草の行商もおおいに売行きが増すだろうなどと――(笑う)実際徳淳は、心からそう信じきっているんだからねえ。だが、僕は、不幸にも、あの男ほど単純ではないんだ。
柳麗玉 (寄り添って)そりゃそうだわ。徳淳さんなんかと、較べものにならないわ。
安重根 (独語)ほんとうに心の底を叩いてみると、おれはなぜ伊藤を殺そうとしているのかわからなくなったよ。
柳麗玉 (びっくりして離れる)まあ、安さん! あなた何をおっしゃるの――?
安重根 ここまで来て、伊藤を殺さなければならない理由が解らなくなってしまった――。(自嘲的に)祖国の恨みを霽らして独立を計るため――ふふん、第一、国家より先に、まずこの安重根という存在を考えてみる。(ゆっくりと)ところで、おれ個人として、伊藤を殺して何の得るところがあるんだ。
柳麗玉 (熱心に縋りついて)どうしたのよ、安さん! 今になってそんな――あたしそんな安さんじゃないと思って――。