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たぬきじる

完本 たぬき汁

佐藤 垢石

佐藤垢石『完本 たぬき汁』。同一底本的分册已合并为一书。收入:たぬき汁、『七面鳥』と『忘れ褌』、海豚と河豚、うむどん、縁談、議会見物、採峰徘菌愚、酒渇記、酒徒漂泊、すっぽん、増上寺物語、淡紫裳、探巣遅日、盗難、濁酒を恋う、にらみ鯛 、春宵因縁談、姫柚子の讃、美音会、みやこ鳥。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,158 字 · 273 页

青空文庫

寺の庫裏の広い土間へ立って、

『ご免なさい、ご免なさい』

と幾度も繰り返した。漸く聞きつけたと見え、奥の方から五十二、三歳の梵妻風の老女が出て来て、私の前へ立った。

『なんぞ、ご用どすか』

と、けげんな顔をしたのである。

私は、しばらくためらっていたのであるが、放蕩に身を持ち崩し、東京を夜逃げの姿で旅立ちし、土佐から神戸、大阪と職を捜してさまよってきた。けれど、どこでも職がみつからない。もう、身に一銭の蓄えもなく、この先どうして生きていこうかと、寺の前の田圃で思案に耽っていたが、とうとう決心してお寺様の弟子にして頂きたいと考え、だしぬけではありながら、お訪ねした次第です。と正直に言ってみた。すると老女は、これを聞き流したまま、何とも答えないで奥の方へ引き返して行った。

しばらく待っていると、こんどは先ほどの老女と共に、黒い衣に白い足袋をはいた六十の坂を越したらしい、眼の細い物静かな老僧が出てきた。

三

お志のほどは、いま聞いた。だが立ち話ではどうにもならぬから、上がって頂いて篤と相談してあげたいのだけれど、京に用事があって今から出かけるところである。