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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

「房ちゃん達のことを思うと、種夫もよくあれまでに漕付けましたよ。どの位手数の要ったものだか知れません」

「そうさ――どうも見たところが弱そうだ」

姉弟が話の糸口は未だ真実に解けなかった。急に、正太は階下から上って来て、洋燈の置いてあるところに立った。

「母親さん、お仙ちゃんが居なくなったそうです」

こう坐りもせずに言った。思わず三人顔を見合せた。

お仙を探しに行った三吉が、町を一廻りして帰って来た頃は、正太も、豊世も、お種も出て居なかった。家には、老婆一人茫然と留守をしていた。

「お仙ちゃんは未だ帰りませんか」

と庭から声を掛けて、三吉は下座敷へ上って見た。壁に寄せて座蒲団の上に寝かして置いた種夫の姿も見えなかった。

「坊主は?」

「坊ちゃまですか。めんめを御覚しだもんですから、御隠居様が負ぶなさいまして、表の方へ見にいらッしゃいました」

夏の夜のことで、河の方から来る涼しい空気が座敷の内へ通っていた。三吉は水浅黄色のカアテンの懸った玻璃障子のところへ行って見た。そこから、石段の下を通る人や、町家の灯や、水に近い夜の空なぞを眺めながら立っていた。お仙が居なくなったという時から、やがて一時間も経つ……