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いえ
家
島崎 藤村
02 (下)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页
五
そのうちにお延やお鶴も起きて来た。
小泉の家では、先代から仏を祭らなかった。「御霊様」と称えて、神棚だけ飾ってあった。そこへ実は拝みに行った。父忠寛は未だその榊の蔭に居て、子の遠い旅立を送るかのようにも見える、実は柏手を打って、先祖の霊に別離を告げた。
お倉やお俊は主人の膳を長火鉢の側に用意した。暗い涙は母子の頬を伝いつつあった。実は一同を集めて、一緒に別離の茶を飲んだ。
復た鶏が鳴いた。夜も白々明け放れるらしかった。
「皆な、屋外へ出ちゃ不可よ……家に居なくちゃ不可よ……」
実は、屋外まで見送ろうとする家のものを制して置いて、独りで門を出た。強い身体と勇気とは猶頼めるとしても、彼は年五十を超えていた。懐中には、神戸の方に居るという達雄の宿まで辿りつくだけの旅費しか無かった。満洲の野は遠い。生きて還ることは、あるいは期し難かった。こうして雄々しい志を抱いて、彼は妻子の住む町を離れて行った。
五
お雪は張物板を抱いて屋並に続いた門の外へ出た。三吉は家に居なかった。町中に射す十月下旬の日をうけて、門前に立掛けて置いた張物板はよく乾いた。襷掛で、お雪がそれを取込もうとしていると、めずらしい女の客が訪ねて来た。