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いえ
家
島崎 藤村
02 (下)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页
豊世も煙草盆を運んだ。
「お俊ちゃんから今日話がありましたが」とお雪は夫の傍へ寄って、「お祝の時には、私の帯を貸して下さいッて」
「帯は自分のが有るじゃないか」と三吉が言った。
「御婚礼の時の着物に似合わないんですッて」
「じゃあ、貸して進げるサ」
こんな内輪話をしている叔母を誘って、豊世は河岸の方へ歩きに出掛けた。涼台のところには、正太と三吉と二人残った。
三吉は笑いながら「向島もどうしましたかネ」
と小金の噂なぞをして見た。二人の間には、向島で意味が通じた。
「豊世のやつも、気ばかり揉んで――弱っちまう」と正太は歎息するように。
「いっそ、向島に逢わせてみたらどうです」と三吉は戯れて言った。
「いえ、叔父さん、既に最早逢わせてみたんです。駄目、駄目、それほど豊世がサバケていないんですからネ。土手のある待合でした。そこへ豊世を連れて行くと、向島も来て変に思ったと見えて、容易に顔を出しませんでした。あそこで、豊世が一つ笑ってくれると可いんでサ……」
「そりゃ、君、笑えないサ。女同志だもの」
「すると、さすがは商売人だ。人が悪いや。帰りに向島が車を二台あつらえて、わざわざ二人乗の方へ豊世と私を乗せて、自分は一人乗でそこいらまで送って来ました……後で、豊世の言草が好いじゃ有りませんか、『もっと私は凄い女かなんかと思っていた、