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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

往時の隅田川では無いネ」

と三吉は眺め入った。

岸について両国の方へ折れ曲って行くと、小さな公園の前あたりには、種々な人が往ったり来たりしている。男と女の連が幾組となく二人の前を通る。

「正太さん、君は女を見てこの節どんな風に考えるネ」

「さあねえ――」

「何だか僕は……女を見ると苦しく成って来る」

こう話し話し、三吉は正太と並んで、青物市場などのあたりから、浜町河岸の方へ歩いて行った。対岸には大きな煙突が立った。昔の深川風の町々は埋立地の陰に隠れた。正太は川向に住んだ時のことを思出すという風で、あの家へはよく榊がやって来て、壮んに気焔を吐いたことなどを言出した。

その時、彼は岸に近く添うて歩きながら、

「榊君と言えば、先生も引込きりか……あれで、叔父さん、榊君の遊び方と私の遊び方とは全然違うんです……先生の恋には、選択は無い。非常に物慾の壮んな人なんですネ……」

電車が両国の方から恐しい響をさせてやって来たので、しばらく正太の話は途切れた。やがて、彼は微笑んで、

「そこへ行くと、私は選む……一流でないものは、妓でも話せないような気がする……私は交際で引手茶屋なぞへ行きましても、クダラナい女なぞを相手にして、騒ぐ気には成れません。