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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

水色のカアテンも色の褪せたまま掛っている。

老婆は茶を勧めながら、

「是方へ私が御奉公に上りました時は、まあこんな仲の好い御夫婦もあるものでしょうか、とそう思いまして御座いますよ。段々御様子を伺って見ますと……私はすっかり奥様の方に附いて了いました。そりゃ、貴方、女はどう致したって、女の味方に成りますもの……」

この苦労した人は、夫婦の間に板挾みに成ったという風で、物静かな調子で話した。主人思いの様子は、奉公する人とも見えなかった。

「でも、是方の旦那様も、真実に好い御方で御座いますよ」

と復た老婆が言った。

三吉は玻璃障子のところへ行って、眺めた。軒先には、豊世の意匠と見えて、真綿に包んだ玉が釣してある。その真綿の間から、青々とした稗の芽が出ている。隅田川はその座敷からも見えた。伊豆石を積重ねた物揚場を隔てて、初夏の水が流れていた。

「そう、三吉叔父さんがいらしって下すったの」

と豊世は、夫の後に随いて、町から戻って来た。

「奥様、先程も一人御二階を見にいらしった方が御座いました」

と老婆が豊世に言ったので、正太夫婦は叔父の方を見た。夫婦の眼は笑っていた。