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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

お雪が自分の家の二階で、夫に話しているところへ、勝手を知った豊世が階下から声を掛けて上って来た。

「叔母さん、御免なさいよ。御断りも無しで入って来て――」

と豊世は親しげな調子で挨拶した。

正太が名古屋へ発ってから、こうして豊世はよく訪ねて来るように成った。長いことお雪は豊世に対して、好嫌の多い女の眼で見ていた。「豊世さんも好いけれど……」とかなんとか言っていたものであった。正太と小金の関係を知ってから、急にお雪は豊世の味方をするように成った。豊世の方でも、「叔母さん、叔母さん」と言って、旅にある夫の噂だの、留守居の侘しさだの、二階を貸した女の謡の師匠の内幕だのを話しに来る。正太が発つ、一月あまり経つと、最早町では青梅売の声がする。ジメジメとした、人の気を腐らせるような陽気は、余計に豊世を静止さして置かなかった。

「豊世さん――正太さんの許から便りが有りましたぜ」

と三吉に言われて、豊世は叔父の方へ向いた。風呂敷包の中から小説なぞを取出して、それを傍に居る叔母へ返した。

三吉は笑いながら、「何か貴方は心細いようなことを名古屋へ書いて遣りましたネ」

「何とか叔父さんの許へ言って参りましたか」