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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

暑く成らないうちに、と思って、お俊は井戸端へ盥を持出した。お延も手桶を提げて、竹の垣を廻った。長い袖をまくって、洗濯物を始めたお俊の側には、お延が立って井戸の水を汲んだ。

「ああ、今日は朝から身体が菎蒻のように成っちゃった。牛蒡のようにピンとして歩けん――」

こんなことをお延が言って、年長の従姉妹を笑わせた。お俊は釣瓶の水を分けて貰って復たジャブジャブ洗った。

庭には物を乾す余地が可成広くあった。やがてお俊は洗濯した着物を長い竿に通して、それを高く揚げた。

「うれしい!」

思わず彼女は叫んだ。お延は立って眺めていた。

「学校の先生が、夏休の間に考えていらッしゃいという問題を、ひょいと思出してよ」

こうお俊が話し聞かせて、お延と一緒に勝手口から上った。二人は意味もなく起って来る微笑を交換した。互に、濡れた、あらわな手を拭いた。

空は青い海のように光った。イヤというほど照りつけて来た日光は、白い干物に反射して、家の内に満ち溢れた。午後から、娘達は思い思いの場所を選んで足を投出したり、柱に倚凭ったりした。三吉は、南の窓に近く、ハンモックを釣った。そこへ蒸されるような体躯を載せた。