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いえ

家

島崎 藤村

01 (上)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页

青空文庫

三吉は二度も三度も読んでみた。旧い小泉の家を支えようとしている実が、幾度か同じ蹉跌を繰返して、その度に暗いところへ陥没って行く径路は、ありありと彼の胸に浮んで来た。三吉が過去の悲惨であったも、曾てこういう可畏しい波の中へ捲込まれて行ったからで――その為に彼は若い志望を擲とうとしたり、落胆の極に沈んだりして、多くの暗い年月を送ったもので有った。

実が残して行った家族――お倉、娘二人、それから他へ預けられている宗蔵、この人達は、森彦と三吉とで養うより外にどうすることも出来なかった。それを森彦が相談して寄した。この東京からの消息を、三吉はお雪に見せて、実にヤリキレないという眼付をした。

「まあ、実兄さんもどうなすったと言んでしょうねえ」

と言って、お雪も呆れた。夫婦は一層の艱難を覚悟しなければ成らなかった。

冬至には、三吉の家でも南瓜と蕗味噌を祝うことにした。蕗の薹はお雪が裏の方へ行って、桑畑の間を流れる水の辺から頭を持上げたやつを摘取って来た。復た雪の来そうな空模様であった。三吉は学校から震えて帰って来て、小倉の行燈袴のなりで食卓に就いた。相変らず子供は母の言うことを聞かないで、茶椀を引取るやら、香の物を掴むやら、自分で箸を添えて食うと言って、それを宛行わなければ割れる様な声を出して泣いた。