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いえ
家
島崎 藤村
01 (上)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页
七
番人は緑色の旗を示しながら立っていた。暫時三吉も佇立んで眺めた。轟然とした地響と一緒に、午後の上り汽車は三吉の前を通過ぎた。
「直樹さんも行って了った。曾根さんも行って了った」
こう三吉は思いやった。
ぼっぼっと汽車が置いて行った煙は、一団ずつ桑畠の間を這って、風の為に消えた。停車場の方で、白い蒸気を噴出す機関車、馳けて歩く駅夫、乗ったり降りたりする旅客の光景などは、その踏切のところから望むことが出来る。やがて盛んな汽笛が起った。
「直樹さん、左様なら」
と三吉は朝一番で発った人のことを思出して、もう一度別れを告げるように口の中で言ってみた。汽車は出て行った。三吉は山の上に残った。
七
一年経った。三吉は沈んで考えてばかりいる人ではなかった。彼の心は事業の方へ向いた。その自分の気質に適した努力の中に、何物を以ても満すことの出来ない心の空虚を充そうとしていた。
彼が探していた質実な生活は彼の周囲に在った。先ず彼は眼を開いて、この荒寥とした山の上を眺めようとした。そして、その中にある種々な物の意味を自分に学ぼうとしていた。
お雪も最早家を持ってから足掛三年に成る。