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いえ

家

島崎 藤村

01 (上)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页

青空文庫

一つ部屋に、応接間もあれば、ランプ部屋もあれば、お勝手もある……蚊が出て困ると言って、実の家から蚊帳を借りたは好かったが、釣ってみると部屋一ぱいサ。環を釘へ掛けても、まだダクンダクンしてる……笑ったにも何にも……」

「そういう思いもしてみるが好う御座んす――」と三吉が言った。

お種と豊世とは顔を見合せた。やがてお種は一服やって、「私もネ、長いこと伊東の方に居ました。森彦の親切で、すっかり保養も出来たで……是頃お雪さんから手紙を下すったように、もしお前さんの許で私を呼んでくれるなら、行って子供の世話でも何でもしてやるわい」

「まあ、暫時私の方へ来ていて御覧なさい――姉さんには田舎の方が静かで好いかも知れません――そのかわり、何にも御馳走は有りませんぜ」

「御馳走なぞが要らずか。この節では、お前さん、一週間に一度ずつ森彦の旅舎へ行って、新聞を読んで、お風呂に入れて貰って、夕飯を振舞って貰っては帰って来る。それより外に何にも楽みが無い――私は今、そういう日を送ってる」

豊世は姑から細い銀の煙管を借りて、前曲みに煙草を燻してみながら、話を聞いている。

「伊東に居た時分も、お前さん、他の奥様なぞが橋本さんは御羨しい御身分だ、こうして毎日遊んでいらしっても、御国からは御金を送って来るなんて――他は何事も知りませんからネ……