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いえ
家
島崎 藤村
01 (上)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页
」
こういうお種の調子には、存外沈着いたところが有るので、三吉も心配した程では無いと思って来た。弟は話を進めようとしたが、それを言う前に、自分の方のことを持出した。学校の暑中休暇を機会として、名倉の家まで行く積りだと話した。
「先頃お雪さんが出ていらしった節は、実の家の方で御一緒に成りました」とお種が言った。
「私はネ、叔父さん」と豊世は引取って、
「このお宿でお雪叔母さんにお目に懸りました――森彦叔父さんと御一緒に伺って」
「これはお前より叔母さんの方に先に逢ってますよ」とお種は嫁の方を弟に指して見せた。
豊世はこの始めて逢った「叔父さん」という人にジロジロ見られるような気がして、姑の傍に小さく成っていた。
夏の日が暮れて、燈火は三人の顔に映った。三吉は姉の容子を眺めながら、こう切出した。
「達雄さんも、名古屋の方だそうですネ……」
「そうだそうな」
と答えるお種の顔には憂愁の色が有った。それを彼女は苦笑で紛わそうともしていた。
「何処も彼処も後家さんばかりに成っちゃった」
「三吉――俺は未だ後家の積りじゃ無いぞい」と姉は口を尖らした。
「積りでなくたって、実際そうじゃ有りませんか」