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いえ
家
島崎 藤村
01 (上)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页
僅かに兄弟の力を頼りに細々と煙を立てる有様である。二間ばかりある住居で、日も碌に映らなかった。それに、幾度か引越した揚句のことで、ずっと昔の生家を思出させるような物は殆んどお種の眼に映らない。唯、奥の方の壁に、父の遺筆が紙表具の軸に成って掛っている。そこには、未だそれでも忠寛の精神が残っていて、廃れ行く小泉の家に対するかのようである……
こういう衰えた空気の中でも、お俊はズンズン成長した。高等女学校程度を卒える程の年頃に成った。
「御蔭様で、俊も、学校の方の成績は始終優等だもんですから、校長先生も大層肩を入れて下さいましてネ」と言って、お倉は娘の方を見て、「お前の描いた画を持って来て、伯母さんにお目にお掛けな」
お俊は幾枚かの模写をそこへ取出して来て、見せた。この娘は自分で模様を描いた帯を〆ていた。
「漸くこういう色彩の入ったものを許されました」とお倉は娘の画をお種に指して見せて、「三吉さんが、画や歌のお稽古は止めて学校だけにさしたら可かろう――なんて言うんですけれど、折角今までやらしたものですから、せめて画の先生だけへは通わせたいと思いますんですよ。